『枕草子』清少納言(平安中期)
1000年前の時代を生きた女性が、何を思い、何に喜び、何を憂い、何に思いを馳せたのか。
31文字の世界から飛び出して、筆者の見る世界を随筆という形でもっと自由に軽やかに表現したこの作品は、現代を生きる私たちが見過ごしてしまっている日々の「をかし※」にたくさん気づかせてくれる。
下記、素敵だなと思った箇所を備忘録として。
「232段(牛車にゆられて:月明かりバージョン)」
月明かりの綺麗な夜に、外の空気を吸いたくてお散歩に出た際に、牛車が浅い川の渡る際に水しぶきをあげる。その跳ねる無数の水玉が月明かりに照らされて、まるで水晶が砕け散ったいるかのようにとても美しい。
⇒”キラキラ”の表現力が凄まじい。その一瞬の光景に心から魅了されている様子がありありと伝わってくる。
「276段(雪の日の思い出)」
出されたキーワードの意味をすぐに理解し、相手の期待に応える。メッセージを送る側と受け取る側両方がその事に精通し、頭の切れる者同士でないと伝わらない。でも分かり合えた時の嬉しさと言ったら。
⇒教養の高さと機転の利く頭。今の世でも間違いなく出世するタイプ。
中宮定子に仕えていた彼女は、今でいうやり手のキャリアウーマン。
話の舞台も宮中という、庶民には手の届かない華やかな世界。
”リア充”をひけらかす内容なのかと思う部分もあったけれど、文中で「あなたの書き物は面白いから、ひとつ残らず書いてと読者に頼まれた故、自慢のように聞こえる話も仕方なく書いてる(から許してね♪)」とお茶目に釈明していたり、これが書かれたのは、清少納言が宮中でイジメられて、耐えられなくなって実家に戻った後で、あの頃は良かったなぁとキラキラしていた時を思い出しながら書いたという事を知ると、得意げな話も許せてしまう。
また、清少納言は優れた歌人・学者の家系に生まれたけれど、実は歌を詠むのが下手だったという。そのコンプレックスがなければ、散文という未知のジャンルを開拓し花開く事はなかったかもしれない。このエピソードは、何だか私たちに希望を与えてくれる気がする。
内容もさることながら、筆者自身の魅力もたっぷり。
枕草子のファンが多いのも頷ける。
※をかし・・・ワクワクしたり、スカっと爽快になったり、へぇっとゆかな驚きを感じたり、クスクスっと思わず笑顔になったりする心地よい感動を示した古語(あとがき参照)
今回は、読後にNHK『100分de名著』の枕草子の全4回を見たので、さらに記憶に残り、作品の内容も背景も深められた。
指南役として出演されていた山口仲美先生がまた魅力的で。
こんなに楽しそうに話をしてくれるとこっちまで笑顔になっちゃう。
「本当にこれが好き!」って思ってる人から教えてもらうと、頭にも心にもぐいぐい入ってきて、気が付いたら自分も魅了されてしまうってまさにこれ!
いつか先生の講義に出て、古典沼にハマってみたくなった。
山口先生がまとめて下さったエッセイストとしての条件がとても参考になったので、引用させて頂く。
・散文が得意
・人と違ったものの見方ができる
・テーマを設定するのがうまい
・観察力・批判力
・興味関心の幅が広い