私の本棚

出会った本の数だけ自分をアップグレード! 赤羽氏の「ACTION READING」を基にした 読書記録のブログ

『平家物語』信濃前司行長?(鎌倉前期)

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

日本で高等教育を受けた人なら8割方暗唱しているフレーズではないだろうか。
この続きを言える人は3割切る気がするけれど(かく言う私もその一人 笑)。

平家物語は、平家の滅亡を描いた「軍記もの」というジャンルの最初の傑作だそう。
フィナーレを飾る「壇ノ浦の合戦」の地にゆかりのある者として、読んでおく義務があるだろうと、30代半ばにしてやっと書籍を手にとってみた。

ただなぜだろう。断片的だけれど、チラチラと記憶に残ってる部分がある。
特に、那須の与一が扇を射る場面では「ひいふっとぞ射きったる」という原文まで浮かんでくる。そうだ、古文の授業で習っていたのだ。
白石先生ありがとう。でも、これしか覚えていなくてごめんなさい!!!

 

読み進めると思うのだが、平氏の力に陰りが見え始めると決まって「栄えていた者はいつか滅びるものだ=盛者必衰(じょうしゃひっすい)」「この世のものは、どんなに強く立派でも、決して永遠にそのままではいられない=諸行無常(しょぎょうむじょう)」と前置きがある。せっかくタイトルに「平家」という冠を付けたのだから、もっと華々しくサッと散るようなカッコいい描き方をすればいいのにと若干フラストレーション。

あとがきを読むとその理由がわかった。

その当時、自然災害が多発し”滅ぼされた平清盛の亡霊のたたり”だと考えられていたので、その亡霊の怒りを鎮める為に僧侶が行長を雇って『平家物語』を書かせた(諸説あり)というのだ。これなら納得。こういう豆知識があるのとないのとでは、作品に対する臨み方が全く違ってくるので、はじめにとあとがきは必読だ。

 

1000年以上前の戦の記録だが、「富士川の合戦」は、今も昔も変わってないじゃないか!と笑ってしまう。
川を挟んで平氏と源氏が待機し、総攻撃に備えて準備をしていた。
平氏軍の数は源氏軍よりはるかに多く、誰も負け戦だとは思っていなかった。
しかし、源氏軍が「あまりに野蛮で強硬で強者揃いである」というウワサが蔓延し、見えない敵に対する不安がもくもくと大きくなっていった。
そしてついに、対岸で沢山の火が上がったのを見、大きな水しぶきの音を聞いて、源氏の奇襲攻撃だと大慌てで逃げ出したという。

でもこれ実は、平氏軍の勘違い。この火は、戦を恐れて野宿していた農民の煮炊きの火で、大きな音は水鳥が一斉に飛び立った音だった。なんだか落語のオチみたい。

とは言え、笑っちゃいられませんよ?
ツイッターのデマに踊らされて、不安が不安を呼び、買いだめに走る事って実は平氏軍の心理と同じ。
見えない敵とは心の中にある不安で、不安をエサに、その敵はどんどん強敵になる。
コロナウィルスで心も体も参ってくる頃だけれど、見えない敵の強さをきちんと判断できる心持ちで生活していきたいと思う。

 

平家物語 (すらすらよめる日本の古典 原文付き)

※昔から、今日の都で騒ぎが起きた時は奈良にある吉野の山で静かに過ごすのがよいってこの本に書いてあったから、喧騒を忘れに吉野に行ってみたいと思う